【 字 義 】
悸 キ おそれる むなさわぎ 声符は季。〔詩、衛風、褶蘭(がんらん)〕帯を垂るること悸たり」は悸々の意で、〔毛伝〕には節度のあるさまをいうとするが、この詩は女に言い寄られて、おどおどする男の小心さを歌うものである。〔楚辞、九思、悼乱(とうらん)〕に「惶悸(こうき)して氣を失ふ」とみえ、驚きおそれること。そのむなさわぎを動悸という。
一.心臓の痛み ・・・心臓の虚血
靈樞・雑病第二十六
心痛引腰脊、欲嘔、取足少陰。
心痛腹脹、嗇嗇然大便不利、取足太陰。
心痛引背、不得息、刺足少陰、不巳取手少陽。 ・・・少気
心痛引小腹、滿上下、無常處、便溲難、刺足厥陰。
心痛但短氣、不足以息、刺手太陰。 ・・・短気
心痛みて腰脊に引き、嘔かんと欲するは、足の少陰を取る。
心痛みて腹脹り、嗇嗇然として(しぶって)大便不利なるは、足の太陰を取る。
心痛みて背に引き、息するを得ざるは、足の少陰を刺す。巳まざれば手の少陽を取る。
心痛みて小腹に引き、上下滿ち、常に處るところなく、便溲難なるは、足の厥陰を刺す。
心痛むも、但し短氣※し、息の不足するものは、手の太陰を刺す。
※短氣と少氣の区別をいえば、短氣は過呼吸症候群であり、少気は胸郭狭窄による呼吸困難である。
二.厥逆して心臓が痛む
靈樞・厥病第二十四
厥心痛、與背相控、善稿如從後觸其心傴僂者腎心痛也。先取京骨崑崙、發鍼、不巳取然谷。
厥心痛、腹脹、胸滿、心尤痛甚、胃心痛也。取之大都太白。
厥心痛、痛如以錐鍼刺其心、心痛甚者脾心痛也。取之然谷大谿。
厥心痛、色蒼蒼如死寔、終日太息、肝心痛也。取之行間大衝。
厥心痛、臥若徒居心痛間動作、作痛環甚、色不變、肺心痛也。取之魚際大淵。
真心痛、手足清、至節心痛甚、旦發夕死。
心痛不可刺者中有盛聚、不可取干輸。
厥して心痛み、背とあい控き、善く■(やまい垂れの中に、契の下を心に換えた字 ケイ きざむの意→きりきりと痛む)すること、後ろより其の心に觸れらるる傴僂のごとき者は腎心痛なり。まず京骨、崑崙を取り、鍼を發す、巳まざれば然谷を取る。
厥して心痛み、腹脹り、胸滿ち、心は尤(とが)※めて痛み甚しきは、胃心痛なり。これを大都、太白に取る。
※ 尤は、とがめるの意。音のユウが優に通じて、すぐれて、もっともの意になる。
厥して心痛み、痛みの錐鍼を以ってその心を刺す如き心痛甚しき者は、脾心痛なり。これを然谷、大谿に取る。
厥して心痛み、色は蒼蒼として死する寔の如く、終日太息するは、肝心痛なり。これを行間、大衝に取る。
厥して心痛み、臥して徒らに居るごとく、心痛間ありて、動けば作痛みを環すこと甚しく、色も變らざるは、肺心痛なり。これを魚際、大淵に取る。
真心痛は、手足清(つめ)たく、節に至れば(冷えが肘、膝にまで及ぶと)心痛甚だし。旦に發せば夕に死す。
心痛の刺すべからざる者は、中に(腹中に)盛聚有り。輸(背輸穴)に取るべからず。
三.感情の乱れと動悸・心痛
素問・擧痛論 第三十九
喜則氣和志達、榮衞通利、故氣緩矣。悲則心系急、肺布擧而上焦不通、榮衞不散、熱氣在中、故氣消矣。
喜べば則ち氣は和み志は達(の)び、榮衞は通利す。ゆえに氣緩むかな。悲しめば則ち心系は急し、肺は布(ひろ)がりて擧がれども上焦は通ぜず、榮衞も散ぜず、熱氣は中に(腹中に)在り。ゆえに氣は消(おとろえ)るかな。
靈樞・五邪第二十
邪在心則病心痛、喜悲、時眩仆。視有餘不足而調之其輸也。
邪心に在れば則ち心痛を病む。喜悲し、時に眩仆す。有餘不足を視、これをその輸に調うなり。
靈樞・口問第二十八
黄帝曰人之太息者何氣使然。■ (ギ 足+支) 伯曰憂思則心系急、心系急則氣道約、約則不利、故太息以伸出之。補手少陰心主、足少陽、留之也。
ここに述べられていることは、子午流注による取穴で、少陽經の丘墟を取ることで治療できるという実際と一致する
黄帝曰く人の太息するは、何の氣か然らしむ。■(ギ 足+支)伯曰く憂思すれば則ち心系急す、心系急すれば則ち氣道約す、約すれば則ち不利なり、故に太息して以てこれを伸出す。手の少陰心主、足少陽を補い、これに留むるなり
素問・痺論 第四十三
心痺者脈不通、煩則心下鼓、暴上而喘鬱乾、善噫厥氣上則恐。
心痺あるものは脈通ぜず、煩なれば則ち心下鼓たり。暴かに上りて喘し、鬱乾き、善く噫す。厥氣上れば則ち恐る。
四.そ の 他
靈樞・熱病第二十三
心疝暴痛取足太陰厥陰、盡刺去其血絡。喉襦舌巻、口中乾、煩心心痛臂内廉痛、不可及頭、取手小指次指爪甲下去端如韮葉。
心疝暴痛するものは、足の太陰、厥陰を取り、盡くその血絡を刺して去る。喉襦し、舌巻き、口中乾き、煩心し、心痛みて、臂の内廉の痛み、頭に及ばざるは、手の小指次指の爪甲下、端を去ること韮葉のごときを取る。
素問・脈要精微論 第十七
診得心脈而急此爲何病、病形何如。■ (ギ 足+支) 伯曰病名心疝、少腹當有形也。帝曰何以言之。■ (ギ 足+支) 伯曰心爲牡藏、小腸爲之使、故曰少腹當有形也。
王冰注・・・靈蘭秘典論曰、小腸者受盛之官、以受其盛。故形居於内(=腹内)也。
診て心脈を得るに急なれば、此れ何病と爲し、病形はいかん。■(ギ 足+支)伯曰く病名心疝なり、少腹まさに形あるべし。帝曰く何を以てこれを言う。■(ギ 足+支)伯曰く、心は牡藏た爲り、小腸はこの使た爲り、故に曰く少腹まさに形あるべと。
靈樞・經脈第十
脾所生病者舌本痛、體不能動揺、食不下、煩心、心下急痛。
脾の所生病は舌本痛み、體はよく動揺すべからず、食下らず、煩心して、心下急痛す。
靈樞・厥病第二十四
厥頭痛、面若腫、起而煩心、取之足陽明太陰。
厥して頭痛するものは、面腫るるごとく、起てども煩心す、これを足の陽明太陰に取る。
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